トラウマとは一体何なのか
なぜトラウマは心と体に様々な影響をおよぼすのか
アメリカ、ボストン
半世紀近くにわたり
世界のトラウマ研究を牽引してきた
精神科医のコークさんです
(ボストン大学医学部教授、ヴァン・ダ・コークさん)
コークさんの研究の出発点となったのは
ベトナム戦争から帰還した兵士が抱えた心の問題でした
戦場でトラウマを抱えた人が
社会に適応できない問題をはじめ
自然災害や犯罪被害が生み出すトラウマなどに取り組みました
しかし、コークさんはこれまで注目されていなかったトラウマに気づきます
多くの人を苦しめているのは日常生活で生じるトラウマだったのです
コークさん ベトナム帰還兵は目立つ存在だったので、そのトラウマの問題は世間から注目を浴び、人々の受け止め方は変わりました。
しかし家庭内暴力やレイプの被害を受けた女性のトラウマの問題は、ベトナム帰還兵と同じような症状を起こしているにもかかわらず、診断において注目されてきませんでした。
コークさんらは、脳科学の方法でトラウマとは何かを追い求めました
これはトラウマ体験を思い出しているときの脳の血流が
普段に比べて増加した部分を示した図です
右脳の感覚や感情をつかさどる部分が活発になっています
この部分は危険にさらされたときに
身を守るために働くため
コークさんは「サバイバル脳」と名付けました
サバイバル脳が活性化すると
左脳の理性的に考えたり情報を処理する領域の
活動が低下することも明らかになりました
トラウマを負った人は
その体験に触れるたびに
サバイバル脳が興奮して体が緊張状態になると同時に
思考力が低下します
それが心と体にさまざまな悪影響を与えているとコークさんは考えました
コークさん この研究で分かったことは、脳の情報処理と思考に必要な部分の働きが不能になっていたことです。トラウマの経験がよみがえると、脳の認知能力が衰えるのです。怖い、いらいらする、過敏になるなどの症状も現れ、肉体的にも原因不明の不調が現れます。
しかし、その原因は理解できず、心と体のつらさから逃れるために、薬物やアルコールに走ったり、自傷行為や拒食症などの問題行動をとることにつながります。
今年5月に発表された
アメリカの新しい精神科診断マニュアルです
(アメリカ精神医学会、精神障害の診断と統計の手引き、DSM-5)
PTSDの人は抑うつ症状や、
薬物依存を併発する割合が高くなると記されています
(PTSDと併発、抑うつ症状、双極性障害、不安障害、薬物依存)
トラウマとさまざまな心の病の関連に注目が集まっているのです
トラウマが及ぼす悪影響の大きさが浮き彫りになる中
さまざまなトラウマの治療法に注目が集まっています
その一つ、EMDRの考案者で心理学者のシャピロさんです
(EMDR開発者、フランシーン・シャピロさん)
シャピロさん 心にあるものを思い浮かべながら指を目で追って。(患者の目の前で指を左右に振る)
およそ20年前、
トラウマとなった出来事を思い出しながら眼球を左右交互に動かすと
苦痛が和らぐことを見つけました
この現象を多様な症例に適用する方法が開発されてきました
シャピロさん EMDRでは、脳内に保存されているトラウマの記憶にアクセスし、脳にその処理を促します。そうすると記憶が保存されていた期間の長さには関係なく、トラウマを解消することが可能だと分かったのです。
EMDRの効果を脳科学から裏付ける研究も行われています
このPTSDの人の脳では
左右の脳をつなぐ連合神経繊維
そして小脳が異常な興奮状態にありました
EMDRを3回行ったところ
興奮状態が収まり、左右の脳の正常な連携も復活しています
アメリカではEMDR治療の資格を持つ人は4000人を超えています
しかし日本では、まだ400人にも達していません
トラウマを対象とした治療は他にもありますが
日本では受診の機会が少ないのが実情です
今年、WHOは
EMDRを患者への負担が最も少ないトラウマ処理の方法として推奨しました
今、世界の臨床の現場は
大きく変わろうとしています
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