物語は当初の予定から大きく動き始めた
その鍵を握る女性がいた
ヒロイン、奈穂子
恋に落ちた2人は互いにとってかけがえのない存在となっていく
だが、奈穂子は不治の病に侵されていた
2人は離れ離れになる
それでも二郎に会いたい一心で奈穂子は名古屋駅にやってくる
映画のクライマックスは近づいていた
宮崎 奈穂子が病院抜け出して来るって分かった瞬間に、二郎もなんかの覚悟があるはずだ。そこまでちゃんと表現しなきゃ駄目だ。この駅で再会するシーンが山場なんだよ。そのときに二郎がどういう態度をとるか。
宮崎は独り絵コンテに向かい続ける
宮崎 人が別れ別れになってしまう時代だからさ。みんなに共通体験があったの。会えないとかね、連絡が取れないとかね。時間がないんですよ、奈穂子さんが。そういう切迫感がないといけないと思うんだけど、それどういうふうに表現していいのか、俺にもよく分からない。
宮崎が研ぎ澄まされていく
宮崎 違う、違う。なんか違うの。(ホームに着いた奈穂子の表情を描き直す)
宮崎 やってることの意味なんて分かんないの。つくってるときは分からない。意味を考えてつくってるんじゃない。2人を出会わさなきゃいけない。出会わせたらどうするんだ。(外でタバコを吸いながら)
2012年11月7日
宮崎 どうしようかな。
互いを見つけ出した2人が走りだした
70にして初めて描く大人のラブシーン
宮崎 こういうときにてらわずにやんなきゃいけない。てらわずにやんなきゃいけないんだけど。
(頭を抱えながら絵コンテに向かう)
自らの無垢な心をさらけ出す
「良かった。疲れたろう」(絵コンテに二郎のセリフを書き込む)
短い言葉で相手を思いやる
宮崎 今はここでとやかく言わない。こういう恋をしたことないから分かんない。
1週間がすぎた
宮崎はこの日、妙にいら立っていた
宮崎 何だろう、この無責任な後ろ姿は(二郎の後ろ姿)。後頭部張り倒したくなるんだよね。あー、イライラする。俺は絵コンテやんなきゃいけないんだよ(笑)
どうしても気になっているシーンがあった
名古屋駅の再会の場面だ
激動の時代を精いっぱい生きようとした二郎と奈穂子
その全てをこのシーンに凝縮する
奈穂子を抱きかかえた二郎がもう一言声をかける
驚いて見上げた奈穂子にさらに語りかけた
宮崎 二郎が駅で「一緒に暮らそう」って言うしかないんだよ。それが奈穂子を受け止める、二郎の最善のことなんですよ。どういうふうに生きたかってことのほうが大事なんですよ。
でも、零戦がどうのこうのっていう映画じゃないいんだよね。もう、全然違う。うん、うん、だから・・・飛行機をつくりたかったんで、戦争やりたかったんじゃないとかね、そういうくだらない言い訳は一切するのやめようと思ってる。
かつてない切ないラブシーンが誕生した
(ホームで奈穂子の姿を見つけ人混みをかき分け駆け寄る二郎)
(奈穂子も二郎を見つけ人をよけながら駆け寄る)
(転びそうになる奈穂子を抱きしめる二郎)
奈穂子 「二郎さん、二郎さん」
二郎 「良かった。見つけられなかったらどうしようかと思った」
(顔を上げる奈穂子)
二郎 「もう大丈夫だよ。歩ける?」
奈穂子 「うん」
二郎 「行こう」
(奈穂子を抱きかかえながら歩き始める)
(汽車が汽笛を上げる)
奈穂子 「私、一目会えたらすぐ帰るつもりだったの」
二郎 「帰らないで」
(ハッとして二郎を見上げる奈穂子)
二郎 「ここで一緒に暮らそう」
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