2013年9月2日月曜日

「堪る限り力を尽くして生きる」宮崎駿スペシャル『風立ちぬ』1000日の記録(13) プロフェッショナル仕事の流儀



2012年12月17日
 
それから間もなく
 
宮崎はフィナーレに取り掛かった


二郎と奈穂子のはかない新婚生活だ


(畳の部屋)

宮崎 ワイシャツ、ちょっとどうやって畳むか真似だけやってくれる?

女性スタッフ ワイシャツでいいんですか。着物を畳むんじゃなくて。

宮崎 ええ。ワイシャツでいいんです。二郎は会社から帰ってきたわけですから。


女性スタッフ 受け取って・・・。

宮崎 そうか、そっち側から入るんだ。

女性スタッフ こっち側に置きますよね、普通。

宮崎 反対側から見たいね。(女性の右手側から左手側に移動してスケッチする)


奈穂子が病床から起きて、二郎のワイシャツをかいがいしく畳む

どれだけのリアリティーを持たせられるか


(席に移動して絵コンテの紙の端に描き直す)


迷い、思い悩む宮崎はもはやそこにいなかった


宮崎 ディテール、ディテールしかないんですよ。ディテールこそ大事なんだけど。


人が生きた様をまっすぐに描く


宮崎 ヒロインが死ぬことで盛り上げて映画をつくろうっていうふうに思ってない、俺は。もう、この人たちがどうやっていくかって見ていくしかない。


2012年12月29日

年の瀬、絵コンテは残り100カット

宮崎は二人の別れのシーンへ向かった


日々をどれだけ濃密に生きようとしているか

自らに問いただすようにして鉛筆を走らせる


宮崎 人が生きていくっていう。力を尽くして生きなさいっていうね。堪る限りの力を尽くして生きなさいって。だから、自分たちに与えられた、自分たちの範囲で、自分たちの時代に堪る限り力を尽くして生きるしかないんです。


これまで書きためてきた絵コンテを見直し始めた

(荒井由実の『ひこうき雲』のCDが流れている)

宮崎 よくこんな絵描いてるね、もっともらしくね、俺。(奈穂子が布団に入っている横で机に向かう二郎のシーンを見ながら)

女性スタッフ (笑)

宮崎 ね? ああ、そうだ、見るところ忘れちゃった。いい絵コンテだなあと思って。


まだ見ぬ自分に出会うため危険な賭けに挑んだ新作映画


宮崎 あの子の~いのちは~ひこう~き♪ まあ、よく描いてきたねえ、こんなに。

女性スタッフ (笑) しみじみしちゃった。

宮崎 いやあ、しみじみしてないよ。一寸先は闇でやってんだからね。


ようやくたどり着いた安堵(あんど)がそこにあった


2013年6月

宮崎駿、11本目の長編映画が完成した



(初号試写でのあいさつ)


宮崎 どうもお疲れさまでした。
 恥ずかしいんですけど、自分のつくった映画で泣いたのは初めてです。(お辞儀)


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