2013年9月2日月曜日

「俺はものすごくうれしいよ」宮崎駿スペシャル『風立ちぬ』1000日の記録(12) プロフェッショナル仕事の流儀



2012年12月12日
 
 
残された課題は二郎の声を誰に吹き込んでもらうか
 
 
(会議)
 
女性 イメージ的には二郎っていうのは、声が少し、線が細い感じがするんですが。
 
宮崎 線は細くないんですよ。昔のインテリって滑舌がはっきりしてて、ちょっと(声が)高いんですよ。はっきり言って言葉数少ないだけなんです。頭良過ぎて、あんま余計なこと言わないだけなんです。内気だからしゃべんないんじゃないの。そういうややこしいキャラクターなんです。
 
 
二郎のキャラクター像は明快

だが適任者が見つからない


鈴木P 素人がやったほうがまだ感じが出そうですよね。



鈴木P 庵野?

宮崎 庵野ですか? 庵野面白いね。


社会現象と化した『エヴァンゲリオン』の監督、庵野秀明


目を背けたくなるような心の闇までリアルに掘り下げる作品は熱狂的な支持を集めた

宮崎は庵野を血を流しながら映画をつくっていると評し、

その存在を強く認めてきた


宮崎 庵野の声ね。

鈴木P (笑)

宮崎 頭いいから何を要求されてるかは分かるよね。

鈴木P はい。

宮崎 1回とってみたら?

鈴木P ちょっと、じゃ、オーディションしてみましょうか?

宮崎 (笑) これは、これは開闢(かいびゃく)以来の。


2012年12月14日

2日後、早速庵野がやって来た


庵野 滑舌がすごい悪いんですが。

宮崎 それがいいんですが。

庵野 あ、そうですか(笑)



宮崎 うまくいってくれないかなあ。面白いんだけどね。


庵野に本格的な声優の経験はない



(地下のスタジオでマイクの前に立つ庵野秀明、1階のブースに鈴木プロデューサーと宮崎駿)


庵野 君たち、ひもじくない? これを食べなさい。


鈴木P いいじゃん。(右手でオーケーサイン)

宮崎 いいんじゃないかなあ、ねえ。こんな声出すやついないよ。

鈴木P びっくりした。


庵野 これを食べなさい。そこの店で買ったばかりのシベリヤです。


宮崎 いいじゃん。(鈴木プロデューサーの肩をはたく)


(庵野が1階のブースに戻ってくる)


宮崎 いやあー、参った。やって! (手を1回たたく)

庵野 え? 首じゃないですか。

宮崎 いや(笑)


宮崎 頼みます。

庵野 まあ、宮さんに言われちゃ断れない。

鈴木P あっはっははははは!

(机に倒れこむ宮崎)

宮崎 これはショッキングなニュースだね。

庵野 ショッキングでしょうね。


(ソファに2人で座って宮崎が両手でピースサイン)

宮崎 行こう!(手を1回たたく)俺はものすごくうれしいよ。
 声に何考えてるか分からないとこがあるからいいよ。堀越二郎ってそんなに理解された人間じゃないと思うんだよね、周りから。


時代に翻弄(ほんろう)されながら飛行機をつくった二郎と

今時代と向き合い映画をつくる庵野

宮崎は二郎に庵野を重ね合わせていた


宮崎 これ、まだ言いふらさないほうがいいのかな?

鈴木P (笑)


(作画しているスタッフのところへ移動する宮崎)


宮崎 すごいことになりました。庵野秀明になった。

女性スタッフ ええー(笑) 決まりました?

宮崎 決めました。

女性スタッフ 本当に?

宮崎 おかしいでしょう?


宮崎はいつになく高ぶっていた


(さらに移動する宮崎)

女性スタッフ(鈴木Pの秘書?) はい。なんか伺いました。良かったですね。

宮崎 良かったですよ、本当に。

女性スタッフ はあい。

宮崎 大丈夫、いける。俺、黒川さん(二郎の上司)やりたくなってきちゃった。

女性スタッフ ああー、いいですね。

男性 いいじゃないですか(笑)

女性 じゃあ友人?は鈴木さん。

宮崎 (笑) とうとうジブリは金がなくなって内輪で商売やってる。


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