2013年8月26日月曜日

「だから日本の漫画は面白い」田村淳×浦沢直樹×倉本美津留 ボクらの時代(6)



田村 お二人作品作るじゃないですか、そのとき、走りだした瞬間てゴールは見えてるんですか。

倉本 僕はね、思いついたときにこうなるっていうゴールは見えんねんけども、でも途中でほんまかって思うのね。

田村 (笑) そのゴールは?

倉本 うん。思いついたときからゴールになるときに、大抵途中で不安になるんだけど、それ乗り越えたら最初のゴールよりももっといいもんができてるときがよくあるのね。で、途中でやっぱり思ってたことと違うこといっぱい起こるやんか。

田村 うん、うん。

倉本 大抵それをしんどいなあー! って乗り越えていったら最初にイメージしたことよりももっと面白くなってくれてんねんか。その繰り返し、だからいつでも不安。面白いこと思いつけば思いつくほど不安。

浦沢 そだね。

倉本 うん。

田村 そっかあ。そこに向かっていくつらさを知ってるから。

浦沢 非常に似てるわ、それはね。ほとんど言ってること一緒だね。

田村 へーえ。あ、じゃあ(浦沢さんも)そうなんですか?

浦沢 一番最初に僕は面白水を手にいっぱい、なみなみ持ってますって、で、それが少しずつチョロチョロ、チョロチョロ、こぼれるけど、こぼれないようにします、今すごく面白いですっていうところをどういうふうにゴールまで運ぶかっていう、そういう感じに近いよね?

倉本 なるほど。うん、うん、うん。

浦沢 で、ジャバジャバって(こぼれて)。

田村 うん。面白水がもったいないって。

浦沢 そうそうそう。それを最後までこぼさないように持ってくっていう感じなんだけど、ただでもそれは最初に思ったことっていうよりも水の質は変質するよね。

田村 うん、うん、うん。

倉本 そうそうそう。でも、その変質が功を奏してくれるっていうか、もうそこは身を任せたりして。

田村 そっか。一番最初の水に戻そうとするんじゃなくて、この変わった色をっていう。

浦沢 俺はこう思ったんだもんていう、そこをあんまり頑固にやらないで割と寄っかかっちゃった方がいいっていうのあるんですよね。

田村 へーえ。浦沢さん、瞬間で漫画を描くじゃないですか、バーって。んで、1週間ごとに提出するんですよね。

浦沢 ええ。週刊誌の場合はそうですね。

田村 で、今週になって思いつくことで、でももう出しちゃってるから変えられないじゃないですか、そういうのもあるんですか。あそこそうしとけば良かったー見たいな。

浦沢 あのー、日本の漫画って、それだから面白いんですよ。あのね、この週刊連載の漫画って、きっとちゃんとやってるのって日本しかないんですよ。

田村 海外とかではないんですか。

浦沢 ないと思うんですよ。それこそ映画の編集のように一回戻ってあそこやり直しておこうとか、そういうことが一切できない。

田村 そうですよねえ。

浦沢 全部出しっぱなしなんですよ。

倉本 はいはいはい。

浦沢 そっからとてつもない面白い感じが出てくるっていう。

田村 ああー。

浦沢 だから読者の皆さんは、ある意味ライブなんですよ。

田村 うん、うん。

倉本 生放送やねん。

浦沢 生放送みたいな。もう、だってひったくられてくんだもん。

田村 (笑) ひったくられるんですか? もう間に合わないって。

浦沢 そう、もう製版所が過ぎたら終わりって。もうその状況のときには次の号にかかんなきゃいけないから。だからそういうことでずーっとみんな回ってんですよ、全ての漫画が。

田村 そっかあ。だからすごいんだ、日本の漫画は。みんなライブでやってるから。

倉本 エネルギーの入り方というか、ねえ。

浦沢 『20世紀少年』の歌が、僕、漫画内で歌を登場させるなんていうのは自分の中でありえない話だったんだけど・・・。

田村 はい。

浦沢 ロボットが2体、新宿の高層ビルの中で対峙して、そこで大爆発が起きて、全部西口ビル群が全部倒壊するっていうシーンを来週描かなきゃいけない、対峙するまでは描いてる、来週このビルが全部倒壊するの描くの大変だなあって思いながら担当編集者に「来週大変ですね」って言いながら原稿を渡してたらここにテレビがあって、で、ニュース速報が流れて、9.11の報道が流れだして「わあ~、こんなことになっちゃったんだ」つって。

田村 うん。

浦沢 ほいで、もうもちろん西口のビル倒壊シーンはないってなって。

田村 うん。

浦沢 で、来週から『20世紀少年』どうしようって思いながら、夜犬の散歩に出て、で、そのときにあの歌とメロディが流れて、うち帰ってきて、ギター持ってすぐ録音して。

田村 へーえ。

浦沢 ほんで「こんな曲ができた」って編集者に「来週はこの歌で追悼の回にしたいんですけど、どうしましょう」いう連絡をとったんです。

田村 へーえ。

浦沢 だから、そういう流れでああいうストーリー展開になっちゃったんですよね。

田村 そうなんですね。

倉本 だからなんかね、目に見えないものというか。下りてきてる感じがするじゃないですか。

田村 うん。

浦沢 でもそういうのなんかないすか?

田村 僕はテレビ番組やりながら、もう腹抱えて涙が出るぐらい笑うときがもう最高に楽しいですよ。だって笑わせなきゃいけないのに自分が笑っちゃってどうにもならない状況になるのが年に1回か2回あるんですよ。

倉本 はいはいはい。

田村 でもそれは年々減ってきてるからよくないなと思って、そういう場所ちょっとでも増やさなきゃと思って活動してるんですけど。

浦沢 たまに訪れるよね。

田村 そうなんです。見てくれてるんですか?

倉本 この人ねえ、どこにそんな時間あるのかなあっていうぐらい、めちゃめちゃテレビ見てますよね。ていうかなんでも知ってるのよね。

田村 へーえ。

浦沢 もう録画、録画。

(一同笑い)

浦沢 大体仕事中は付けっぱなしですから。

田村 じゃあ何か流れてるんですか、音は?

浦沢 ロンハーとか。

田村 へーえ。

浦沢 毎週、毎週、ずーっとやってるのは時代と呼吸するって言ったらカッコ良すぎるかもしれないですけど、やっぱりそういう感じはあるんですよ。

田村 うん、うん。

浦沢 だから毎日テレビつけっぱなしにしてるし、ああいうのも影響されるんですよね、何となく。

田村 はーあ。入ってくるんだ、ちょっと。

倉本 予知るときあるよね、集中してクリエイティブなことやってると。お笑い番組つくってるときでも、あのときつくったコーナーのことが3カ月後に起こってるとか。

田村 はい、はい。

倉本 飛んでくるみたいな、集中してたら。そういうのあるある。

田村 へーえ。



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