2013年8月31日土曜日

「なんかね嫌だったんだよ、ポニョ」宮崎駿スペシャル『風立ちぬ』1000日の記録(2) プロフェッショナル仕事の流儀



2010年、夏

宮崎は映画作りから離れ、暇を持て余していた


前作『崖の上のポニョ』から2年

新作に取り組もうとする気配は見られなかった


宮崎 自分がやりたいからって体が動くわけじゃないし、頭が動くわけじゃない。かといって、前やってきたことをやりたいと思ってないから。もっと技術的にややこしいことや、もっと仕立て方が俗受けしないことを分かってもやるっていうようなことに傾く年齢なんだよ。老監督ってみんなそうじゃない。


2008年に公開した『崖の上のポニョ』
 
大ヒットこそしたが、その内容に複雑な思いを抱く関係者もいた


鈴木P なんか、なんかね嫌だったんだよ、俺ポニョ(笑) もういいよ、こういうこと前にやったしっていう感じじゃん。


プロデューサーの鈴木が懸念したのは宮崎の老いだった

例えば、宮崎が得意としてきた疾走する車描いた場面を

淡白な描写で、宮崎は枯れたとも囁かれた


30年前の映画デビュー作『カリオストロの城』で見せた

みずみずしくハチャメチャなカーチェイスとは対照的だった


鈴木P やっぱり面白いもん見たいじゃん。もう俺はその一点ですよ。だって、やっぱりすごい人なんだもん。その人が、ねえ、花がしぼむの嫌じゃん。


そんな中、宮崎がひとつの企画を温めていることが分かった


宮崎 堀辰雄は初めこういうふうに訳してるんです「風が吹いた、生きようと試みなければならない」 その後「風立ちぬ、いざ・・・」っていう言葉を作り出してるんだよね。


タイトルは『風立ちぬ』


宮崎 大正時代って全然分かんないよね。髪型だって、こんな面倒くさいの描けないよ。どうすりゃいいんだ。全部湯婆婆の頭になっちゃう。


舞台は大正から昭和にかけての日本

この企画には原作があった

宮崎がプロモデル雑誌で連載していた漫画だ

戦闘機好きで知られる宮崎が

空き時間を使ってゼロ戦の開発に挑んだ堀越二郎の反省を丹念に描いていた


道楽で始めた漫画

実際の戦争に関する描写も多く

これまでの宮崎作品とは一線を画する内容だった


この企画の映画化を進めたのは他ならぬ鈴木だった


鈴木P 戦争を題材にしたら、この人はどんな映画をつくるんだろうって。そうすると、まあ分かるのは、いわゆるファンタジーのようなわけにはいかないでしょう。そうすると、それが封じられるわけでしょう。抑制しなきゃいけないでしょう。そしたら苦しむでしょ、葛藤で。そしたらね、若くなるんじゃないかなっていう(笑)

宮崎 日中戦争、1937年です。昭和12年。34歳です、二郎さんは。そのときにゼロ戦の設計を開始するんです、34で。


秋になると宮崎は新作の構想をまとめ始めた

だが、その心は揺れていた

アニメーションは子供に向けてつくるべきだというのが理由だった


宮崎 堀越二郎が生きた時代も、ものすごい困難な時代なんですよ。そのときに堪(たふ)る限りの力を尽くして生きてきた人間たちがいたんですよね、そこに。

? それは面白そうな映画になりますね、宮崎さん。

宮崎 そんな簡単に言うなよ(笑) 映画になるかならないかっていうのは、こーれ、やればやるほどクラクラするぐらい難しい。


決断できないまま年の瀬を迎えた


そこへ思わぬ情報がもたらされた


鈴木P それだけつくってみりゃ分かるじゃないかと、100秒つくれば。高畑さんにそう言いました。それで長編として成立するかどうか。


映画監督高畑勲が映画作りに取りかかり、テストフィルムをつくるという


数々の名作を生み出し続けてきた宮崎の盟友であり、終生のライバルだ


しかも、今回さらに斬新な映像表現に挑むという


宮崎 あ、そう。それは分かりましたから。

鈴木P はい。


一言言うと宮崎は忘年会に戻っていった


鈴木P 刺激になるよね。これは悩むよね。でも、悩んだ結果なんか出てくるんだったらね、それは多分面白いものになるんだっていう期待が俺の中に
あるわけ。


年が明けた2011年1月

一人アトリエにこもる宮崎の姿があった


書いていたのは新作の企画書だった


宮崎 どうしてこの映画はややこしいかっていう理由ならいくらでも書けるんだけど。結局自分がつくりたいからつくるんだっていうしか理由がないんだよ、いろいろ書いてみたら。
 だから今まで自分が持ってきた法則というか、方程式がね、ま、しょっちゅう壊れてるけど、今度はもう本当につじつまが合わないほど壊れるようになってる。もう子どもがどうのって抜きって感じだよね。

宮崎 いやあ、こんなもん、本当につくんのかっていう感じだね。


ファンタジーを封印し、今までにない領域に足を踏み入れる


飛行機の設計者に憧れを抱く少年時代の二郎

そして遭遇した関東大震災

生きるのが困難な時代を描いていく



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